モンテカルロシミュレーションとは、乱数を使って何千通りもの未来を試し、結果がどれだけ散らばるかを見る方法です。積立なら「20年後にいくらになるか」を1つの金額ではなく、「真ん中ならこのくらい、悪い10本に1本ならこのくらい」という幅で示します。ただし、その幅はどんな前提でリターンを作ったかで大きく変わります。シミュレーションは予測ではなく、前提を置いたときに起こりうることの見取り図です。
固定利回りの計算で見落とすもの
固定利回りの複利計算は、毎月同じ率で増えていく前提です。年5%なら、毎月きっかり約0.41%ずつ増えます。この計算では、悪い年がいつ来るのか、何か月続くのかは結果に影響しません。
実際の相場は、平均が同じ5%でも上げ下げしながら進みます。積み立てた額がまだ小さい最初の数年に大きく下がるのと、残高がふくらんだ最後の数年に下がるのとでは、最終的な金額が大きく変わります。固定利回りの1本の線は、この違いを描けません。
同じ毎月の積立を、固定利回りの1本の線と、上げ下げしながら進む8本のパスで描いたイメージ図です(実際のシミュレーション結果ではありません)。
モンテカルロシミュレーションは3つのステップで動く
- 毎月のリターンの作り方を決める:平均でどのくらい増え、どのくらい上下するかといったルールを決めます。
- 何千回も繰り返す:ルールに従って乱数で毎月のリターンを引き、積立の残高を最後まで計算します。この1回分の未来を「パス」と呼びます。サイコロを何千回も振り直すイメージです。
- 結果を分布で見る:すべてのパスの最終残高を並べ、真ん中や下位の結果、目標に届いた割合などを読み取ります。
計算そのものは単純で、結果を信頼できるかどうかは、ほぼ1番目の「作り方」で決まります。
将来のリターンの作り方は主に3つ
- 正規分布で作る:平均と値動きの大きさだけを決め、毎月を独立に引きます。いちばん簡単ですが、実際の相場で起きるような大きな下落の月が出にくく、悪い月がまとまって来る流れも実際の相場のようには出ません。結果の下側や途中の下落は甘く出がちです。
- 過去の月を引き直す:過去の実際の月次リターンから、毎月ランダムに1つずつ選びます。大きな下落の月も過去にあった分だけ出てきますが、月の順番がばらばらになるため、暴落が数か月続くといった流れは崩れます。
- 相場の「局面」を切り替える:値動きが穏やかな局面と、荒れた局面を行き来させます。荒れた局面に入るとしばらくとどまりやすいため、悪い月がまとまりやすく、相場が荒れたときに株式がそろって下がりやすくなります。こうしたモデルは、専門的にはレジームスイッチングモデルと呼ばれます。
どの方法も過去のデータから作る点は同じで、違うのは「過去のどの特徴を未来に持ち込むか」です。
結果の読み方とよくある誤解
- 中央値:すべてのパスのちょうど真ん中の結果です。半分はこれより上、半分は下で終わります。少数のとても良いパスに引っ張られる平均より、「よくある結果」に近い数字です。
- 下位10%から上位10%の帯:10本に1本はこの帯の下側より悪く、10本に1本は上側より良い結果になります。帯が広いほど、同じ積立でも結果のぶれが大きいということです。
- 目標に届いた割合:たとえば「90%のパスで資金が尽きなかった」という数字です。
よくある誤解は2つあります。1つは、中央値を「こうなる」という予測と受け取ることです。中央値で計画すると、パスの半分はそれを下回ります。もう1つは、「90%」を将来そうなる確率だと考えることです。これはモデルの中で90%のパスがそうだった、という意味で、前提が変われば割合も変わります。
前提しだいで結果は大きく変わる
- 想定するリターン:平均リターンを年1ポイント変えるだけで、20年後の金額は大きく変わります。
- 過去データの期間:たまたま好調だった期間だけを使うと、将来も好調が続く前提になります。データが短いほど、平均リターンの推定そのものがあいまいになります。
- 暴落の続きやすさと資産の連動:悪い月がまとまって来ることや、荒れた相場で株式がそろって下がることをモデルが入れているかどうかで、途中の下落の深さが変わり、帯の下側も多少変わります。
- 手数料・税金・インフレ・為替:入っているかどうかで、手元に残る金額の見え方が変わります。
シミュレーターを使うときは、結果の数字より先に、これらの前提を確かめるのが大切です。
compoundsimのシミュレーターの場合
モンテカルロシミュレーターは、3番目の「局面を切り替える」方法で1,000本のパスを作ります。値動きが穏やかな平常局面と、値動きが大きい荒れ局面の2つを、月ごとに一定の確率で行き来させます。過去データ全体(S&P500は1993年以降)に当てはめたモデルでは、ドル建てのS&P500は平常局面で上がりやすく、荒れ局面で下がりやすくなっています。2つの局面は次のとおりです。
| 指標 | 平常局面 | 荒れ局面 |
|---|
| 長い目で見た割合 | 約85% | 約15% |
| 一度入ると続く平均の長さ | 約18.6か月 | 約3.4か月 |
| S&P500の値動きの大きさ(ドル建て、年率のボラティリティ) | 約13% | 約21% |
ドル建てで見ると、荒れ局面ではS&P500の値動きが平常局面のおよそ1.6倍になり、一度入ると平均で約3.4か月続きます。そのため、下落が重なって途中で残高が大きく減るパスが生まれます。
1本のパスで、荒れ局面の月を灰色の帯で示したイメージ図です。荒れ局面では平常局面より下落する月が多く、下げ幅も大きくなります(実際のシミュレーション結果ではありません)。
局面はすべての資産に共通で、資産同士の動き方も局面ごとに変わります。相関は1に近いほど同じ方向に動き、0なら互いに関係なく動くことを表します。
| S&P500との相関 | 平常局面 | 荒れ局面 |
|---|
| 先進国株式(米国除く) | 0.80 | 0.91 |
| 新興国株式 | 0.67 | 0.82 |
| 米国長期国債 | -0.04 | -0.01 |
| 金 | 0.05 | -0.07 |
荒れ局面では、米国株と米国以外の株がさらにそろって動きます。資産の組み合わせごとの相関は主要指数の相関行列で、組み合わせて運用した結果はポートフォリオのシミュレーターで確かめられます。
ほかにも、次のように作っています。
- 過去データの期間:期間を選べます。1本ごとのパスが、過去データで説明できる範囲の中で平均リターンや局面の切り替わりやすさを少しずつ変えて使うため、データが短いほどその変え幅が大きくなり、帯も広がりやすくなります。過去データを直近5年にした場合と全期間とで、帯の違いを比べられます。
- 使っているデータ:ビットコインを除き、各指数に連動する米ドル建てETFの配当込みの値動きです(S&P500はSPY)。ETF自体の経費はこの値動きに含まれています。
- 為替とインフレ:日本語のページでは結果を円で表示し、初期設定ではドル円の為替変動も含めます。為替の長期的なトレンドは将来も続くとは限らないので除いています。「実質」の表示にすると、インフレ(初期設定は年2%)を差し引いた今のお金の価値で見られます。
- 乱数の出発点:ページを開いた日の日付(UTC)です。同じ日なら誰が開いても同じ結果になり、次の日に開き直すと新しい1,000本に引き直されます。
モンテカルロシミュレーションでわからないこと
- 過去に一度もなかった相場:どの方法も過去のデータから作るため、過去にない種類の相場は出てきません。
- 何年も続く下落:このサイトのモデルでは荒れ局面は数か月で抜けることが多いため、2007〜2009年のような長い下落は実際の歴史よりもまれにしか出ません。下側の結果は楽観的かもしれません。
- 税金と口座の費用:税金や売買手数料など、あなたの口座でかかる費用は入っていません。